ムラサキノヤカタ

徹頭徹尾ひとりごと

結果無価値の集落

 現代のインターネット環境を前提とした美しい小説と出会いたい。その中でも、インターネット上の出来事ならではの特殊性みたいな面にスポットを当てていない作品がいい。我々の人生はインターネット空間と地続きになって久しいのに、創作内におけるインターネット空間は何か特別な地位や役割、意味が与えられてしまいがちだ。

 もちろんインターネット空間の特殊性にフューチャーした表現はこれからもしばらくは必要なのだろう。すっかり日常の一部になっているからこそ、そのクリエイターにしかない切り口が光る作品があるのだと思う。時代性みたいなものの反映も(おそらく)創作の魅力のひとつだ。それ自体は全く否定できるものではない。

 その上で、そういった特殊性を極力排除しつつ、新しいコミュニケーション手法がさりげなく用いられているような創作に出会いたいと僕は願う。「特別で何か得体の知れないもの」を扱っているような見せ方、そこに対する違和感から解放されたいのである。きっと既に誰かが生み出しているのだろうな。

 

 

 

 今夜僕は、zoom上で7人の友人と顔を合わせた。全員が参加できない話題の尺が延び始めたときの空気感がどうしても苦手だ。僕はその場が全員用の話題に戻ってこれるように誘導することを何度か試みたが、なかなか思うようにはいかなかった。そうやって汗をかいている人たちが、今日もどこかでコミュニティを支えているのだろう。いろいろなことを人任せにしてしまっていたな。

 僕は麦茶を飲むために台所に行き、窓の外に見える遠くの満月を眺めながら、彼の顔を思い浮かべようとした。集まりに参加したメンバー全員から満遍なく話題を引き出すことに長けた人だった。思い出すのに8秒かかってしまった。