ムラサキノヤカタ

徹頭徹尾ひとりごと

手紙

見晴らしのいい場所を見つけて居座る。学部と大学院で異なる大学に通っていた僕は、それぞれのキャンパス内における自分の居場所をいくつか確保していた。マンモス私大のキャンパスは寛容だ。どんな者にもそれなりに馴染める居場所が用意されている。コミュニティについての話ではなく、物理的空間についての話だ。それを全員が見つけられるかはまた別の話ではあるが。

 

その日の僕はビジネス・スクール棟のラウンジにいた。全くの部外者が長時間居座って法律書を読み漁っていても、誰も咎めない。行き交う人間が多すぎるのだ。隣に座った者の人生になんて誰も関心がない。ある種の匿名性の保障というか、徹底的に一人として活動することに適している。

他者とのかかわりが自分の人生を豊かにすることについて(今では)疑いはない。それ以外の時間だって僕の人生を豊かにするために必要だと信じているだけだ。僕は自分が部外者であることについて何ら思いを巡らせることなく、厚かましく給湯室を使ってコーヒーを飲み、音を立ててせんべいを食べ、歯を磨いた。うん、ここもお気に入りに加えておこう。

 

多分、どこに行ったっていいのだ。誰も気にしない。

すきなようにやろう。時々物理的に肩に力が入ってしまうけれど、試みることをやめる理由にはならない。その度に整体に行けばいい。