水が溢れるのは一瞬である。一旦溢れ始めてしまうと、それは留まることを知らない。
季節は巡った。暖かな秋だ。
学生運動が盛んであった頃の風土の残るこの建物は、古めかしい空調の音が少々騒がしい。
ただ、それさえ止まってしまうと、ここはとても静かだ。
ここには、通りに面した華やかなイメージを醸し出すビルキャンパスとは、別の時間の流れがある。
工事が進む中庭から控えめに差し込んで来る、正午の日の光が私の身を優しく包む。
過去とは、時に今この瞬間の我々に残酷な夢を見せる。過ぎたこと、と割り切る事は誰でもできる。しかし、不確定な現在進行形の出来事を受け入れるための容れ物の形を変えることは、多分これからもできない。
それでも今日も私は水を汲む。