ムラサキノヤカタ

徹頭徹尾ひとりごと

関節

 誰にも干渉されない時間の心地良さを一度知ってしまった者は、死ぬまで「そこ」との距離を意識しながら暮らさなければならないのだろうか。どうにでもなれと思っていろいろなものを捨てた。自分から捨てておいて、どうにも捨てきれなかった世界に帰ってみた。そのいくつかは、卑劣な僕をもう一度温かく受け入れてくれた。

 すぐに「そこ」に帰りたくなる自分を押さえて、「そこ」のことを忘れたふりをしながら、数年が過ぎた。今でも僕は、「そこ」を忘れられないでいる。どこか遠くの甘い香りと、すぐ近くの生ごみの匂いがする。べとべとしていて、視界は常に白い靄がかかっている。夜の街に並ぶ街灯の光は優しく、同時に冷たい。

 無批判にすべてを受け入れる勇気はなかったが、かといって正気を保ち続ける気力もない。ずっとこのままなんだ、きっと。あと何人に見限られて死んでいくのだろう。

 

 少し経ったら、人に会ってみよう。せめて試み続けてみよう。