ムラサキノヤカタ

徹頭徹尾ひとりごと

四の路、騒音のない世界

 雪がちらつく大晦日に、去っていった日々のことを思い出した。あの日々は僕の精神をかつてないほどに擦り減らすとともに、僕の身体に極めてシンプルな行動原理を刻み込んだ。あの日々がなかった世界線の僕を想像してみる。どこに向かっていただろう。

 あの薄暗いトンネルを抜けた先で訪れた、数々の景色に思いを巡らせてみる。冷たくなった彼の手、閉じたままの彼の目。雪の積もる上田城を一人で見上げたとき、僕は何を思ったのだろう。今もその瞬間の震えがどこかに残っていることを祈る。

 

 「2たす2は4である」と言い続けることは難しい。本当のところ、なんのために足すのかもよくわかっていない。それでもそう言い続けられる世界に分岐し続けること、それを願ってやまない。いや、分岐させ続けるんだ。どこに分岐しても「まじめな子ども」であり続けた彼女のように。温かかった彼の手に報いることができるように。

 

 気が付いたとき、僕は電話をかけていた。相手が出る。何から話せばいいのか、この瞬間も考えがまとまらない。切り出しながら次の切り出しを考えるんだ。そうし続けることでしか、僕たちは先に進めない。

 受話器越しの君は僕に尋ねる。

「しっかり食べているかい?」

僕は答える。「なんとかね。」