ムラサキノヤカタ

徹頭徹尾ひとりごと

汽車のメタファー

久方ぶりに13番線のホームに降り立った僕は、何かを待っていた。それは総武線のことかもしれないし、迎えにいけなかった一昔前の僕のことなのかもしれない。別にどちらだったとしても構わない、なぜなら僕は山手線に乗るから。待ってばかりはやめるって、さ…

知覚・記憶・表現

生前の記憶を維持してSNSを使う2歳児の夢を見た。彼女はれっきとした2歳児だったが、その文体は常に軽快なステップを踏んでいた。なぜ彼女がその2歳児の中にいると気付くことができたのか、振り返ってみてもよくわからない。彼女は大学2年生の時に、ボストン…

関節

誰にも干渉されない時間の心地良さを一度知ってしまった者は、死ぬまで「そこ」との距離を意識しながら暮らさなければならないのだろうか。どうにでもなれと思っていろいろなものを捨てた。自分から捨てておいて、どうにも捨てきれなかった世界に帰ってみた…

四の路、騒音のない世界

雪がちらつく大晦日に、去っていった日々のことを思い出した。あの日々は僕の精神をかつてないほどに擦り減らすとともに、僕の身体に極めてシンプルな行動原理を刻み込んだ。あの日々がなかった世界線の僕を想像してみる。どこに向かっていただろう。 あの薄…

あらゆるものは削ぎ落とされる

今の自分は停車駅1駅分の時間で何が書けるのか、試してみたくて筆を手に取る。きっと大したことは書けない。多分それでいいんだ、と書いて結んでしまうといつもの僕となんら変わらない。せっかくなので違う僕を書きたい。 ここ数週間の自分には、圧倒的に観…

手紙

見晴らしのいい場所を見つけて居座る。学部と大学院で異なる大学に通っていた僕は、それぞれのキャンパス内における自分の居場所をいくつか確保していた。マンモス私大のキャンパスは寛容だ。どんな者にもそれなりに馴染める居場所が用意されている。コミュ…

結果無価値の集落

現代のインターネット環境を前提とした美しい小説と出会いたい。その中でも、インターネット上の出来事ならではの特殊性みたいな面にスポットを当てていない作品がいい。我々の人生はインターネット空間と地続きになって久しいのに、創作内におけるインター…

月明かりの下に花束

24歳になった。マザー・テレサと星新一がこの世を去った1997年に僕は生まれた。要はこの地球にとってはもちろん、人類の歴史にとっても、わりに最近ということだ。 変わって行く世界と変わらない仲間たち、それぞれに敬意を払うことを忘れないでいたい。 高…

ポカリスエットの味

最初に発熱をジェットコースターに喩えたのは誰だったのだろう。今ではすっかりありふれた表現になってしまったし、そのせいでなんだか涼宮ハルヒの書き出しみたいにも思える。でもきっとその発明の瞬間には、新鮮な響きを持っていたはずだ。 きっと織田信長…

風鈴

「人の血が通っているかどうかが重要だ、と君は言っていたよね。僕は君の言っていることがよくわからない。人間だろうがコンピューターだろうが、何を考えているかさっぱりわからないのは一緒じゃないか。程度の問題だ」 僕はユウキにゆっくりと語りかけなが…

あの坂を越えて 私になれたらいいなんて

少しずつ陽の当たる時間が長くなってきているような気がする。午後4時の早稲田駅の周囲は、今し方入学試験を受けてきたばかりの受験生の群れが、秩序立った列を形成していた。見る人によっては例年と何かが違うように見えそうな、その異様な光景の一部を構成…

イギリスと君の時差

世界は一周した。 僕は一周目の世界において失ってきたものの数を数えようと試みたが、何一つ思い出せなかった。思い出しても確証が持てないのだ。二周目の世界には、似たものが多すぎる。それらを僕は一周目の世界で見たような気もするし、見なかったような…

半年前の自分に聞きたいことが山ほどある

新しいものが必要だった。画期的なもの。天地をひっくり返す概念。 世界の解像度を変化させる、もうひとつの視点。 生き急いでいた故に文字通り教師に刃を向けていたクラスメイトたちを横目に見るたび、僕は思った。「何をそんなに焦っているんだ」 ずっと下…

そういえばまだ蝉の声を聴いていない

記憶について考えていた。30年後、きっと僕は昨日のことを思い出すだろう。いや、思い出さなければならない。もう昨日になってしまったこの1日のこと。 早朝に雨が降り、昼を過ぎた頃にもぱらぱらとした小雨がアスファルトを濡らしていた。 その日僕は深夜か…

ライ麦畑と、屋上から見た風

ちょうど4年前、なんの方向性も定まらないまま、フワフワっとした気持ちで大学の法学部に入学した。当時の僕の頭を支配していたのは、「この全く新しく自由すぎる環境を、どうやって生き抜いていこうか」という点だった。あまりにも、縛られることに慣れすぎ…

シャッフル

最後にしりとりをしたのがいつだったか、小一時間考えていたけど全然思い出せなかった。せっかくなので一人でしりとりをすることにした。大学の卒業式は中止になったし、しりとりでもして僕と時間を潰そう。プレイヤーも対戦相手もどちらも僕だ。 見ているの…

サイダーロードのその先で

2020年になってから買ったもの。 時系列は無視。 www.amazon.co.jp 19歳のころ、『饗宴』でお世話になった光文社古典新訳文庫。案の定積読。 学部2年時に受けた倫理学の講義。毎週金曜日、90分間だけその教室に充満する「大学」の雰囲気が僕は好きだった。 …

演劇史Ⅱ

午前0時に帰宅し部屋着に着替えていると、さっきまで着ていたチェスター・コートからピースの香りがした。ずっと昔母に言われたことがあるのだが、どうやら僕は無自覚のうちに、周囲の環境の香りを纏って帰ってくることが多いらしい。彼女に言わせれば、12月…

ブルー・スカイ

人の夢の話を聞くのが趣味だった。 M-1グランプリで優勝したい。週刊少年ジャンプで連載を持ちたい。メジャーリーグでサイ・ヤング賞を獲りたい。研究医になって、祖母と同じ病気で苦しんでいる人々を救いたい…その手の話に興味がないわけではなかったが、や…

春眠が暁を覚えてくれない

ここ数日昼間に目覚めてばかりだったので、ふと、朝日が見たいと思った。強引に体内時計を修正しにかかる。5時に目覚めた僕は、外で降っている雨の音に気付いた。 朝日はまた明日にお預けである。 性根が引きこもりの私にとって、今日の世情は私の出不精に拍…

the end of the world

カラオケルームで性行為に及ぶカップルを3週に1回ほどのペースで目撃していた。僕が20歳の頃のことだ。部屋に監視カメラが設置してあるわけではない、ただ廊下を歩いていると、扉の前を通るだけで部屋の中がある程度見えてしまうのである。 硬くて安っぽいソ…

STAY AWAY

学部在学中最後の期末試験も残り一教科となった。既に卒業単位分の試験は受け終えたため別にばっくれてしまっても構わないのだが、とある縁から知り合った先輩から受講を勧められた民事訴訟法の試験であるから、最後くらい格好のつく成績で大学生活を終える…

別れを前にして

日が沈む頃合いの、市ヶ谷図書館。 2階の閲覧室で僕はすっかり冷めてしまったカフェ・オ・レを飲みながら、生協で買ったばかりの法思想史の教科書を斜め読みしていた。 www.yuhikaku.co.jp 往々にして、試験期間のようなやるべきことが明確に示されている時…

キミにきめた!

2月16日。 昨日は東京に雪が降った。 慌ただしく試験の日程に振り回されていたこの冬のピークが過ぎたことを実感する。それくらい今日は天気が良かった。 市ヶ谷駅前の書店で、同じ試験を受けてきた同級生と合流し、何百回乗ったかわからない総武線に乗る。…

風邪と秋に関する幾つかの考察

秋の低気圧は僕の頭を悩ませる。 比喩でもなんでもなく、なにしろ頭が痛む。 職業病の一種だと思うが、近頃、因果関係と相関関係について考えを巡らせることが多い。 気圧が下がったことと僕が体調を崩したことが厳密な意味で原因と結果で結ばれているかは、…

誰のことを書いたのか思い出せない

体調を崩す。胃腸が弱っていたようだ。 某ラジオの公開イベントを堪能する。 『国境の南、太陽の西』を読み終える。 祖母が入院すると聞いたが、精神の方は健康だろうか。 東京は、既に冬の夜を形作っていた。 12月をテンポアップして今年を終わらしたいな、…

残像

水曜日と木曜日、どちらも丁寧に水を汲むのは難しい。 君といた時は見えた、今は見えなくなったと藤原基央が言っていた。 肉眼で世界を見渡すことができなくなったことが少し悲しい。 放っておくと人の機能は衰退する。 どのようにそれに抗っていくのかが、…

拝啓16歳

気分が良くなかったので、金を使った。 今日は調子が悪かったのだと割り切ってしまえば、授業をサボることで人は意外と気楽になれる。 水曜日に『Catch up, latency』がリリースされた。 ここで会ったがけもの道、癖になる。 どこかセンチメンタルピリオドな…

逃避行

明日に何か餌があるから、僕らは今日を歩く。 少し気を抜くと、たちまち過去に飲み込まれてしまう。 やはり、この季節がそうさせるのか。 嫌な夢ばかり見る。 そこには観念的な断頭台があって、その上に立つ僕を、多くの人が冷めた目で見上げているのだ。 そ…

紫の花

火曜日。 大衆居酒屋で酒を飲み、夜通しカラオケをして帰宅。 こんなことは久しぶりであった。ただ、やはりといってはなんだが、それほど楽しくはなかった。 不確定な未来。 価値観の相違。 1990年代の10年間は、僕らの世代にとって必要のないものだったのか…