「人の血が通っているかどうかが重要だ、と君は言っていたよね。僕は君の言っていることがよくわからない。人間だろうがコンピューターだろうが、何を考えているかさっぱりわからないのは一緒じゃないか。程度の問題だ」
僕はユウキにゆっくりと語りかけながら、病室から窓の外を眺めていた。気持ち悪いくらいの快晴だ。エアコンがなければ、この部屋もじきにサウナと大して変わらなくなる。日が出ている間にここを後にしなければならないことを思うと憂鬱だった。もうしばらくこの部屋にとどまっていたい。
今日のユウキはほとんど口を利かなかったし、全然僕の方を見ようとしなかった。窓の方を向いたまま、起きているのかさえよくわからなかった。僕はその姿を見て、「魔法少女まどか☆マギカ」の上条恭介の姿を思い出していた。何となく気分が沈みそうになったので、本来はユウキが食べるはずであったリンゴを無心で齧った。
「この夏休みが終わっても退院の見通しがつかなかったら、高校をやめようと思うんだ」
ユウキがやっと口を開いた。ここに来てからはじめて、後ろ向きなことを僕の前で喋った。しばらく何を返していいのかわからなかった。
「きっと君はずっと遠く、私が追い付けないくらい遠くまで行ってしまう」
ユウキはときどき、誰よりも鋭い目をして僕を見つめる。
「そんなことはないよ。ずっとここにいる」
はじめてユウキに嘘をついた。僕はリンゴを齧るペースを速めた。
「君もうすうす気づいているはずだ。君は上の世界でやっていけるだけの力がある。少なくともその才能を評価してくれている人が何人もいる」
ユウキは何にも考えていないように見えて、同い年の誰よりも先を見通しているような話し方をするときがあった。未来から来た人間なんじゃないかと疑ってしまうほど。
それでも僕は、ユウキを諦めたくなかった。少なくともその点について、僕が嘘をついたことはなかった。そう、その時点ではそれは嘘偽りない、僕の本心だった。