ムラサキノヤカタ

徹頭徹尾ひとりごと

小説

ポカリスエットの味

最初に発熱をジェットコースターに喩えたのは誰だったのだろう。今ではすっかりありふれた表現になってしまったし、そのせいでなんだか涼宮ハルヒの書き出しみたいにも思える。でもきっとその発明の瞬間には、新鮮な響きを持っていたはずだ。 きっと織田信長…

風鈴

「人の血が通っているかどうかが重要だ、と君は言っていたよね。僕は君の言っていることがよくわからない。人間だろうがコンピューターだろうが、何を考えているかさっぱりわからないのは一緒じゃないか。程度の問題だ」 僕はユウキにゆっくりと語りかけなが…

あの坂を越えて 私になれたらいいなんて

少しずつ陽の当たる時間が長くなってきているような気がする。午後4時の早稲田駅の周囲は、今し方入学試験を受けてきたばかりの受験生の群れが、秩序立った列を形成していた。見る人によっては例年と何かが違うように見えそうな、その異様な光景の一部を構成…

イギリスと君の時差

世界は一周した。 僕は一周目の世界において失ってきたものの数を数えようと試みたが、何一つ思い出せなかった。思い出しても確証が持てないのだ。二周目の世界には、似たものが多すぎる。それらを僕は一周目の世界で見たような気もするし、見なかったような…

ブルー・スカイ

人の夢の話を聞くのが趣味だった。 M-1グランプリで優勝したい。週刊少年ジャンプで連載を持ちたい。メジャーリーグでサイ・ヤング賞を獲りたい。研究医になって、祖母と同じ病気で苦しんでいる人々を救いたい…その手の話に興味がないわけではなかったが、や…

STAY AWAY

学部在学中最後の期末試験も残り一教科となった。既に卒業単位分の試験は受け終えたため別にばっくれてしまっても構わないのだが、とある縁から知り合った先輩から受講を勧められた民事訴訟法の試験であるから、最後くらい格好のつく成績で大学生活を終える…

別れを前にして

日が沈む頃合いの、市ヶ谷図書館。 2階の閲覧室で僕はすっかり冷めてしまったカフェ・オ・レを飲みながら、生協で買ったばかりの法思想史の教科書を斜め読みしていた。 www.yuhikaku.co.jp 往々にして、試験期間のようなやるべきことが明確に示されている時…

キミにきめた!

2月16日。 昨日は東京に雪が降った。 慌ただしく試験の日程に振り回されていたこの冬のピークが過ぎたことを実感する。それくらい今日は天気が良かった。 市ヶ谷駅前の書店で、同じ試験を受けてきた同級生と合流し、何百回乗ったかわからない総武線に乗る。…