ムラサキノヤカタ

徹頭徹尾ひとりごと

別れを前にして

日が沈む頃合いの、市ヶ谷図書館。

2階の閲覧室で僕はすっかり冷めてしまったカフェ・オ・レを飲みながら、生協で買ったばかりの法思想史の教科書を斜め読みしていた。

 

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往々にして、試験期間のようなやるべきことが明確に示されている時期は、そのレールから著しく脱線した内容の本を読みたくなる。

僕はプロタゴラスソクラテスが登場する以前のページをめくりながら、たった2行の記述で説明されている時代、古代ギリシアの暗黒時代について、そんなほとんど誰も存在意義を見出さない時代について、今この瞬間も熱心に研究を重ねている歴史学者がきっとどこかにいるんだろうなとかそんなことを考えていた。

数百万年にわたって続く人間社会は、僕のごく狭い関心が到底及ばない部分について、己の人生を賭けて翻訳を続ける者たちによって成り立っているのだ。


窓から見える外濠校舎。

ベランダの喫煙スペースから中庭を眺める人々の群れから、少しだけ視線を上に向ける。

屋上に浮かぶ、一人の男の影…

思わず見入ってしまったその景色から、この場所での生活の終わりを感じ取った。


そのとき僕は、その一人の男の影が、ゆっくりと落下していくのを目撃することになる。

 


あまりに綺麗な夕焼けだった。